エクスチーム

ウェビナーレポート

新たなガイドラインに対して企業が確認しておくべきことは? 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」をエクスチームがウェビナーを開催致しました。

パーソルイノベーション株式会社が提供する外部人材活用システム「エクスチーム(※1)」が、弁護士法人GVA法律事務所宮田弁護士をお招きして、7月7日、合同セミナーを実施しました。

ウェビナー開催の背景

副業解禁、リモートワークの定着などにより、フリーランスや副業を志向する個人が増えています。 一方で、企業とフリーランス・副業者とのトラブルは増加傾向にあり、企業側がフリーランスを受け入れる体制については、まだまだ足りない部分が多く、環境を整える必要性が求められるようになっています。

そんな中、令和3年3月26日に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が連名で、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を公表しました。

そこで、今回は弁護士法人GVA法律事務所の宮田智昭弁護士をお招きし、実務において企業側が知っておくべきポイントを教えてもらいました。

登壇者

弁護士法人GVA法律事務所/第一東京弁護士会所属
宮田智昭
2015年 京都大学法学部 卒業
2017年 京都大学法科大学院 修了
2018年 最高裁判所司法研修所 入所
2020年 GVA法律事務所 入所

今回のガイドラインの趣旨とは?

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、フリーランスの方が安心して働ける環境を整備することを趣旨としています。

この観点から、このガイドラインではフリーランスの方がより活躍できる社会を実現するために、フリーランス・事業者間の取引で留意すべき点が記載されています。 まずガイドラインに関わる3つの法律を整理しましょう。

・独占禁止法……公正かつ自由な競争の促進と一般消費者の利益の保護を目的
適用対象:事業者とフリーランス全般との取引に適用

・下請法……新規業者の下請事業者に対する取引を公正にすることを目的
適用対象:資本金1,000万円超の法人の事業者とフリーランス全般との取引

・労働法……労働者を守ることを目的
適用対象:実態が「労働者」である場合

フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項とは?

このガイドラインでは、独禁法と下請法の観点から遵守事項がまとめられていますが、この中で重要な概念として「優越的地位の濫用」という概念があります。

これは、情報量や交渉力を有している発注事業者が取引上の優越性を利用して、フリーランスの方に対して不当な不利益を与えることを言います。

この優越的地位の濫用につながりうる行為として問題となる12の行為をこちらに記しています。今回はその中でも赤字にしている4つをそれぞれのケースで細かく見ていきましょう。

「報酬の支払遅延」の具体例

・社内の支払手続の遅延、役務の成果物の設計や仕様の変更などを理由として、発注事業者側の一方的な都合により、契約で定めた支払期日に報酬を支払わない場合

・発注事業者が一方的に報酬の支払期日を遅く設定する場合


「報酬の減額」の具体例

・役務等の提供が終わっているにもかかわらず、業績悪化、予算不足、顧客からのキャンセル等、自己の一方的な都合により、契約で定めた報酬の減額を行う場合

・契約で定めた報酬を変更することなく、役務等の仕様を変更することで報酬を実質的に減額する場合


役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い」の具体例

・フリーランスの方が著作権などの権利の譲渡を伴う契約を拒んでいるにもかかわらず、今後の取引を行わないことを示唆するなどして、当核権利の譲渡を余儀なくさせる場合


「役務の成果物の返品」の具体例

・単に役務の成果物を購入した客から返却されたことを理由に、フリーランスの方に返品すること

・直ちに発見できる瑕疵であったにもかかわらず、役務の成果物の検収に要する標準的な期間を遥かに経過した後になって、瑕疵があることを理由にフリーランスの方に返品する場合



以上、これらが実務上で発生するケースが多い具体例になります。
合わせて、契約締結時の留意点として書面作成の重要性もお伝えしたいと思います。

契約を締結する場合、契約書を作成しないケースが実態的にありますが、基本的には書面を作成する必要があると認識していただきたいです。

独禁法・下請法のいずれの観点からも発注時の取引条件を明確にする書面を作成することが重要です。 また、これらの法律の適用がある場合に限らず一般的な意味でも、契約書という書面作成が法的には大変重要になってきます。

もし、紛争が生じてしまった場合、言った言わないの論争になることは目に見えています。 その際にも書面がエビデンスになりますし、書面を作成することで交渉を合理的に進めることができるメリットがあります。

もう一つのテーマ「労働者性」とは?

ここでは、労働法の観点についてお伝えしたいと思います。具体的にはどのような場合に「フリーランス」の方が「労働者」にあたるのか、という点です。

「労働者」の概念は下記の法律に応じて2つの概念に分けられます。

・労働基準法…労働時間や賃金等に関するルールの適用
・労働組合法…団体交渉を正当な理由なく拒んだりすること等が禁止されている

ただし、労働者性は契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、法律に定める労働者であるか否かを判断すると言われています。

今回は、その中でも労働基準法に関する「労働者性」についてご紹介します。以下が労働基準法上の「労働者性」の判断基準です。

労働者性の判断においては、表の下部に記載される以下の3つが重要な判断要素になります。

・諾否の自由がない
フリーランスの方に仕事を受けるかどうかの裁量があるかどうか、発注者の仕事の指示、依頼を受けるかどうかを決められる自由があるかどうかということです。

例えば、発注者の仕事が、病気のような特別な理由がないと断れないようなケースだと「諾否の自由がない」と認められる方向に判断されます。 フリーランスの方が自由に判断できないと「労働者性」ありと判断される可能性が高まります。

・業務遂行上の指揮監督がある
業務の内容や遂行方法について具体的な指揮命令を受けているかどうかです。これはよく一般的に議論になるところですね。

たとえば、契約や予定にない業務も命令されたり頼まれたりするといった場合には、「労働者」と判断される場合があります。

・拘束性があるかどうか
発注者から勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか。

始業の時間が決められていることはよくあることですし、それ自体で問題があるという訳ではないですが、 時間に遅れると遅刻になり、報酬が減るなどですと「労働者性」ありという判断に近づきます。

こういった3つのポイントを中心に「労働者性があるのか?」を見ていくのですが、補強要素も含め当てはまる項目が多いほど、上位概念に上がり、「労働者」であると判断されます。

以上、今回策定されたガイドラインを理解することで、フリーランスの方にとっては、より働きやすい環境を、事業者にとっては、より容易に高い外部スキルを獲得できることにつながります。 互いにより働きやすい環境を作るための、ガイドラインとも言えるでしょう。

質疑応答

最後に、質疑応答が行われ、参加者からは多数の質問が飛び交いました。頂いた質問についてご紹介します。

Q.今回、このガイドラインが発表された背景を教えてください。

Q.著作権についてです。会社が合意したつもりでも、フリーランス側がそうでないと主張した場合、どのように対処するべきでしょうか。

Q.「労働者性」について、たとえば3つのポイントのうち「拘束性」が確認された場合、どのような判断がなされるのでしょうか。

Q.「労働者」と認定されてしまった場合はどうすべきでしょうか?

Q.一人のスタッフに対して、雇用と業務委託のどちらも契約することは可能でしょうか?

実務に関わることもあり、活発な質疑応答となりました。45分という短い時間ではありましたが、フリーランスと企業の関係性において、理解が深まった時間でした。

※1 エクスチームについて
「エクスチーム」は業務委託契約に特化したクラウド型人材管理・活用ツールで、発注から納品、請求までを一元管理し、会社に存在する業務委託のすべてを可視化します。

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